[今回の過去問]
横浜市立大学(医学部医学科)2009年度 目標60分
末期がんの患者さんに対する医療についてあなた意見を1,000字以内にまとめて述べなさい。
【これまでの話】
前回から、横浜市立大学の過去問の検討をしています。今回は、3回目。書き上げた答案の見直しをします。
[第69回]
「校正は、鬼のように」
A子 「今週も、よろしくお願いします」
平川先生「こちらこそ。今回は、前回にA子さんが書いてくれた、答案の校正をします。
一生懸命に書いてくれたのは評価しますが。表記上の問題が、かなりありました。
ちゃんと直しましょう」
A子「はい、分かりました(少し、落ち込んでいる)」
(下記が、A子さんの書いた答案です)
1,告知は治療の第一歩
末期がんの患者に対する医療では、医師と医療スタッフが、通常の病気の治療以上に大きな役割を果たす。
まず、病名の告知をすべきか、どうかが問題となる。
「個人の尊厳」から、患者の自己決定権が重要である。そこで、患者への病名の告知が、どんな場合にも不可欠のようにも考えられる。しかし、実際には病名を告知され、自分の残りの人生がわずかであると知らされて、冷静でいられる人間はいない。本人への慎重な配慮が必要である。精神的なサポートが、欠かせない。
そこで、病人への告知にあたっては、家族の協力も欠かせない。
「告知は、がん治療の第1歩」そんなことを、ある医療関係者が言っていたが、その通りだ。自身の姿をしっかり捉えられるように周りが支えることが、大事だ。自分のありのままを見据えることができてこそ、治療が始まる。時には、その一歩を病人自身が踏み出すためには、周りが少し待ってあげることだ。末期といわれて、多くの人は、先が見えなくなり自暴自棄になる。しかし、そのうちに次第に落ち着き、これから先のことを考え始める。末期がんの患者の治療には、周りが粘り強く支えることも、治療の一環と考えるべきだ。
また、家族の精神的な支えと伴に、医療スタッフの存在も欠かせない。
ともすれば、気分が落ち込みふさぎ込みがちな患者に、ちょっとした声かけをするだけでも、気持ちを楽にすることになる。つらい痛みが、和らぎ、前に進む勇気が生まれる。
2、どのような医療を選択するか
告知を踏まえ、次に、どのような医療を選択するかが、問題となる。
治療は患者が、医療行為と看護に十分納得するものとなることが欠かせない。
満足できる説明と患者の理解ということから、インフォーム・ド・コンセント(説明を受けた上での同意)を踏まえたものでなければならない。
本問では、病人は末期がんであることから、本人への医師の説明は、患者が①延命治療を望むのか、それとも、②緩和治療の選択をするのかを考えさせる必要がある。
延命治療を選択した患者は、つらい治療が開始される。これまで以上に、医療スタッフの協力の下に、家族の支えが重要になる。
積極的な治療を望まず、痛みを緩和するだけの医療を望む患者についても、家族の支えは不可欠である。医療関係者は、家族とも協力して穏やかに余生を送れるような手厚い世話を心がける
ことが、大事である。(898字)
以上
平川先生「さて、繰り返しの言葉が、結構あるのですが、気づきましたか」
A子「はい、『告知』が、最初の9行に5つあります。」
平川先生「ええ、そうですね。他にも、『治療』という言葉が、後半の部分だけで6つあります。
同様に、『医療』という表現も、上記『治療』と同じ範囲に6つありますね。さらに、
『患者』が、5つ使われていますね。
同じ用語が、繰り返し使われるのは、なぜいけいないのでしょうか。どう思います」
A子「同一の言葉が繰り返されると、くどい感じがします。そのあとを読む気が、なくなります
(下をうつむいて、気落ちしている様子)。自分では素早く、問われていることに応えること
ができたと、思っていたのですが。こんなに同じ言葉を使っていたなんて、全く気がつい
ていませんでした」
平川先生「うん、そうですね。実際の小論文の試験では、ここまで細かくチェックされることは
ないかも知れませんが、合格のためには、完璧を目指しましょう。
そのためには、校正は鬼のようになって、やってください。ただし、試験現場におい
ては、時間も限られています。ある程度繰り返すのも、やむを得ないでしょう。1つの段
落に、同じ言葉は2つまではよし、としましょう」
A子「はぁ・・・(うつむいたまま)」
平川先生「確かに。気がせくとどうしても言葉が単調になります。だから、思わず同一の用語を
使ってしまいます。今から、意識して短時間に書くことを練習すれば、解消されます。
気にせずに。これも合格のための試練だと思って、取り組みましょう。
『治療』だったら、『病気を治すこと』、あるいは思い切て、繰り返しの部分の表現
は、文意が通じるならば、省いてもよいでしょう。
次回は、今日の続きを行います。内容的にも、後半部分の治療について、もう少し具
体的に、書き改めることもします」
A子「(気を取り直して)はい、分かりました」
平川先生「今回は、少しばかり厳しかったかも知れません。でも、採点者は、A子さん、あなた
の答案だけで、考える力をチェックするのです。言葉の1つ1つの使い方には、最善の注
意を払うべきではないでしょうか。
1度に全てを、改善しろとはいいません。確実に、同じミスはしないようにしましょ
う」
A子「はい、分かりました(少し元気になった)。頑張ります」
平川先生「そう、その意気です。そろそろ時間です。今日は、ここまでとします」
A子「ありがとうございました」
平川先生「こちらこそ、ありがとうございました。来週もお楽しみに」
【今回のポイント】
「採点者の目線に立って、チェックしよう」
採点者は、あなたの答案だけで、考える力を見ます。表記もそうですが、字それ自体も、丁寧に書くことを忘れずに。どんなに論理的で、出題者の意図に応える答案であっても、汚い字では採点する人も読むのが、嫌になります。ちゃんと読んでくれません。
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平川先生の小論文講座58
スクール東京
最高名誉顧問
成川豊彦
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略歴
昭和49年(1974年)
Wセミナー・グループを設立。
平成12年(2000年)
国際著名人年鑑「InternationalWHO’SWHOofProfessionals」に選出される。
平成21年(2009年)
司法試験・予備試験専門の少人数制予備校「スクール東京」の最高名誉顧問に就任。
司法試験・予備試験の合格に向けて、自ら直接指導。
現在
中国・西南法政大学客員教授も務め、教育・健康の分野において国内外で活躍中。
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