[今回の過去問]
横浜市立大学(医学部医学科)2009年度 目標60分
末期がんの患者さんに対する医療についてあなた意見を1,000字以内にまとめて述べなさい。
【これまでの話】
横浜市立大学の過去問検討です。今回は、4回目。前回の校正を踏まえ、答案を完成させます。
[第70回]
「一字一句を、丁寧に」
A子 「今週も、よろしくお願いします」
平川先生「こちらこそ。先週は、A子さんの答案には、『告知』や『医療』『患者』などの特定の
単語が多用される傾向があることを指摘しました。そして、同じ言葉を繰り返すことは、
採点者にとって読みにくく、せっかく書いた文章の評価を下げることが、問題だとも言い
ました。今回は、以上の私のアドバイスを踏まえて、文を書き上げてもらいます」
A子「はい、分かりました」
(下記が、A子さんの書いた答案です)
1,告知は治療の第一歩
末期がんの患者に対する医療では、医師とスタッフが、通常の病気にたいする以上に大きな役割を果たす。
まず、病名を患者に直に知らせるべきか、どうかが問題となる。
「個人の尊厳」から、個々の人の自己決定権を踏まえる必要がある。そこで、病人への病名を知らせることが、どんな場合にも不可欠のようにも考えられる。しかし、実際には病名を知らされ、自分の残りの人生がわずかであると分かり、冷静でいられる人間はいない。本人への慎重な配慮が必要である。精神的なサポートが、必要だ。
そこで、病人への告知にあたっては、家族の協力が欠かせない。
「病名を知らせることが、がん治療の第1歩」そんなことを、ある医療関係者が言っていたが、その通りだ。自身の姿をしっかり捉えられるように周りが支えることが、大事だ。自分のありのままを見据えることができてこそ、病を治すことが始まる。時には、その一歩を本人自身が踏み出すためには、周囲が少し待ってあげることだ。
「余命何ヶ月」といわれて、平気な人はいない。多くの人が、先が見えなくなり自暴自棄になる。しかし、そのうちに次第に落ち着き、これから先のことを考え始める。末期がんの患者に病名を知らせることでは、周りが粘り強く支えることも、回復への一環と考えるべきだ。
また、家族の精神的な支えと伴に、病院スタッフの存在も重要だ。
ともすれば、気分が落ち込みふさぎ込みがちな病人に、ちょっとした声かけをするだけでも、気持ちを楽にすることになる。つらい痛みが、和らぎ、前に進む勇気が生まれる。
2、どのような医療を選択するか
告知を踏まえ、次に、どのような治療を選択するかが、問題となる。
患者が、病院の行う医療活動と看護に十分納得するものとなることが欠かせない。
満足できる説明と本人の理解ということから、インフォーム・ド・コンセント(説明を受けた上での同意)を踏まえたものでなければならない。
本問では、病人は末期がんである。そこで、本人への医師の説明は、①延命を望むのか、それとも、②痛みの緩和を選択するのかを、考えさせる必要がある。
延命を選択した病人は、抗がん剤投与や放射線治療等、つらい処置が開始される。これまで以上に、病院スタッフの協力と伴に、家族の支えが重要になる。
積極的な手当てを望まず、痛みを緩和することだけを望む患者についても、身内の人の支えは不可欠である。医療関係者は、家の人とも協力して穏やかに余生を送れるような手厚い世話を心がけることが、大事である。(949字)
以上
平川先生「うん、同じ語句の使用が、ほとんどありませんね。どうです、A子さん、読みやすく
なったでしょ」
A子「はい、本当に。表記を変えただけで、文って変わるんですね。改めて、『文章の書き方っ
て、大事だな』と、思いました」
平川先生「ええ、そうです」
A子「先生のおっしゃるように、採点者は、私の答案だけを見るんですものね。一字一句が、
大切なんだと、分かりました。これからは、表記にも注意を、払うようにします」
平川先生「くどいようですが、小論文は文面だけで審査されます。それだけに、表記自体も試験
でチェックされているのだ、という認識を持つようにしましょう。
さて、前回もう1つの指摘としてあった具体例も、告知については、そのつらさの話
しが、延命治療については、抗がん剤と放射線治療の例が書かれています。前よりも説
得力が出ました」
A子「はい、ありがとうございます(明るい顔で微笑む)」
平川先生「設問に応える、合格答案です。これからも問題を読んで、出題意図をつかむ、そして、
答案構成をして頭を整理する。その構成を基に、1つ1つの表記を丁寧に、重ねていき
ましょう」
A子「はい、この3回のご指導のおかげで、ステップを重ねることの大切さが、よく分かりました」
平川先生「それは、よかった。さて、時間です。次回は、日本医科大学2016年の再生医療につい
ての過去 問を検討します。再生医療というと、山中伸弥京都大学教授のiPS細胞が有名
です。今後の医療の大きな方向性の問題です。 お楽しみに」
A子「私も、ニュース等でもよく目にします。これまで治癒が困難といわれていた病気治療法に有
効と、いわれて関心が高まっていますね。来年度の医学部入試にも、出題されそうです。
今日は、ありがとうございました。来週も、よろしくお願いします」
平川先生「こちらこそ、よろしくお願いします」
【今回のポイント】
「表記の仕方も、文の書き方の重要な要素」
たかが文字ぐらいとは、考えないでください。
「 読みやすい字で、読みやすい文を書いてこそ、採点者はチェックしてくれる。正しく評価されるんだ」、そんな思いで、普段の小論文作成に、臨んでください。
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平川先生の小論文講座58
スクール東京
最高名誉顧問
成川豊彦
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略歴
昭和49年(1974年)
Wセミナー・グループを設立。
平成12年(2000年)
国際著名人年鑑「InternationalWHO’SWHOofProfessionals」に選出される。
平成21年(2009年)
司法試験・予備試験専門の少人数制予備校「スクール東京」の最高名誉顧問に就任。
司法試験・予備試験の合格に向けて、自ら直接指導。
現在
中国・西南法政大学客員教授も務め、教育・健康の分野において国内外で活躍中。
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