[今回の過去問]
2014年久留米大学(医学部医学科)「時代を見据えた理想の医師像」
目標60分
【これまでの話】
先週から、医学部・小論文に出題されることが多い「あるべき医者の姿」について、課題を取り上げています。
[第89回]
「時代に応える医師の姿とは?」
A子 「今週もよろしくお願いします」
平川先生「こちらこそ。よろしく。さて、先週は『時代を見据えた』理想の医師ということで、
時代の特徴について少し考えました。その上で、答案構成をし、時間があったので書いてもらいました。
ただ、A子さんの書き上げた文章は、最初の『不安な時代』と『理想の医師像』の関連が、
今ひとつはっきりしませんでした。また、表記においても、後半で同じ語句が何度も出ていましたね」
A子「そうです。家に帰ってから見直したら、何回も『スタッフ』という言葉が、出ていました。よく見直したつもりでしたが、まだまだです」
平川先生「そんなことは、ありませんよ。自分の過ちを直ぐに認める素直さが、A子さんのよさですよ。弱点を、直ちに認めるので、進歩が早いです。医学部合格というところまで、あと少しですよ。
では早速、書き直してみましょうか」
A子「はい、分かりました」
以下が、先週A子さんの作った答案構成と答案です。
【答案構成】〈注〉答案構成とは、答案の柱となる事項を書き出し、表にして整理したものです。
【答案】
日本の人口は、数年前から減少を始め、高齢者の介護を高齢者がする
「老老介護」が社会問題となっている。
人口減少による経済規模の頭打ちにより、国家財政も限界が見えている。
もはや、国民が単に国に要求さえすれば済む時代は、終わりを告げた。
その一方で、医療技術は臓器移植からiPS細胞を中心とした再生医療へ
と発展し、医学の専門性、高度化は格段と進んでいる。
このような時代において、あるべき医師の姿とは、いかなるものである
か。それは、患者の病を改善、治療するための存在という医師の自覚を持ち
つつ、その専門性、技術性を高める研鑽をする努力を怠らない人であることだ。
病人の信頼を得られる人物である。
なぜなら、医療は患者から命を託されるからだ。その信頼に応えるために
は、患者との意思の疎通、日常的な病人とのコミュニケーションが欠かせない。
また、病院退院後の日々の生活における健康管理の指導も、配慮する必要
がある。
さらに、今日の高度な医療は看護師、検査技師、その他の病院スタッフと
の連携がなければ、維持できない。そこで、看護師、検査技師などの医療
スタッフ、病院スタッフとの日頃の意見交換も不可欠である。
(521字)
―――――――――――――――――――――――――――――――
しばらくして、下記がA子さんの書き直した答案です。
【答案】
今の時代の特徴は、先が見えないということだ。小子高齢化社会が進み、
日本の人口は、数年前から減少に転じ、高齢者の介護を高齢者がする「老
老介護」が社会問題となっている。
人口減少による経済規模の頭打ちにより、国家財政も限界が見え始めた。
もはや、国民が国に要求さえすれば問題が解決する時代は、終わった。
一方、医療は臓器移植からiPS細胞を中心とした再生医療へと発展し、
医学の専門性、高度化は格段と進んでいる。
このような時代において、あるべき医師の姿とは、いかなるものか。
それは、患者の病を改善、治療するための存在という医師本来の目的を
見失わないことだ。そして、その専門性、技術性を高める研鑽を怠らない
人であり、病人の信頼を得られる、人物であることだ。
なぜなら、医者は患者から命を託されるからだ。その信頼に応えるために
は、高い専門性を有しているとともに、患者との意思の疎通、日常的な
病人とのコミュニケーション能力が欠かせないからだ。
また、病院退院後の日々の生活における健康管理の指導も、配慮する必要
がある。
さらに、今日の高度な医療は看護師、検査技師、その他の病院関係者との連
携がなければ、維持できない。
そこで、医療スタッフ、病院従業員などとの日頃
の意見交換も不可欠である。医師の責任は、ますます重くなっている。
(548字)
〈注〉「など」は、通常は「等」と表記すべきですが、漢字が続いていて、
読みづらい印象を採点者に与えるので、ひらがな表記に換えました。
平川先生「なるほど、今度はちゃんと流れが出ています。分かりやすくなりました。題意に応える答案になっています。合格です」
A子「ありがとうございました。ホッとしました(「ふっ」と、肩の力を抜く)」
平川先生「さて、次回からは、高齢者対策の問題を考えます。A子さんも、少し検討をしておいてください」
A子「はい、ちょっと考えておきます」
平川先生「そろそろ時間です。いよいよ本格的な冬の季節の到来です。体調には、くれぐれも気をつけてください。ジャンクな食べ物は、避けて、少しお金がかかるかもしれませんが、栄養のある物を取るようにしましょう。来週も、お楽しみに」
A子「はい、今日はありがとうございました」
平川先生「こちらこそ、ありがとうございました」
【今回のポイント】
「文章を書くことを、大切に」
先日、経済協力開発機構(OECD)による国際的な学力調査で、日本の若い人たちの読解力が、2015年よりも大幅に低下(世界8位から15位に)したことが発表されていました。
実は、私は毎日Twitterで文章の書き方をツイートしています。そのツイッターをフォローしてくださったから、メールを頂くことがあります。いろいろなご意見は、日々の論文指導に役立つものです。
ただ、残念なことに、文章を書く基本ができていないのか、主語、述語が抜けていたり、指示語、接続語がない一文で書かれていたりで一体、何をおっしゃっているのか、分からない場合が、最近多く見かけます。
スマホやSNSで、容易に社会から情報を受け、同時に発信できるようになりました。しかし、言葉の使い方を見ると、スマートフォンが出現していなかった2007年以前の方が、学生にコミュニケーション能力があったように思います。
医学部を目指すあなたは、何れ医師になった時に、多くの患者と接する機会が増えます。その時、的確な表現をするツールとして、文章を書くということが、大きな力を発揮します。
私のこの講座も、単に医学部受験のためにだけに利用するのでなく、これをきっかけに、自己の意思を伝達する道具として記述力の訓練をしているのだ、と考えてください。そして、活用してください。
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スクール東京
最高名誉顧問
成川豊彦
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略歴
昭和49年(1974年)
Wセミナー・グループを設立。
平成12年(2000年)
国際著名人年鑑「InternationalWHO’SWHOofProfessionals」に選出される。
平成21年(2009年)
司法試験・予備試験専門の少人数制予備校「スクール東京」の最高名誉顧問に就任。
司法試験・予備試験の合格に向けて、自ら直接指導。
現在
中国・西南法政大学客員教授も務め、教育・健康の分野において国内外で活躍中。
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