[今回の過去問]
千葉大学(医学部)2009年度。目標45分
次の2つの文章(A)と(B)を読み、設問に答えよ。
(A)
自己複製子は、複製をつくるのに必要な構成要素の小分子をたくさん含んだスープの中につかっていたと考えられる。そしてその資源をめぐって、自己複製子のいろいろな変種ないし系統が、競争をくりひろげたことであろう。おそらくある自己複製子は、化学的手段を講じるか、あるいは身のまわりにタンパク質の物理的な壁をもうけるかして、身をまもる術を編みだした。こうして最初の生きた( 1 )が出現したのではなかろうか。生き残った自己複製子は、自分が住む生存機械を築いたものたちであった。四十億年が過ぎ去った今、古代の自己複製子の運命はどうなったのだろうか?いまや彼らは、遺伝子として外界から遮断された巨大でぶざまなロボットの中に集団として群がり、曲がりくねった間接的な道を通じて外界と連絡をとり、リモートコントロールによって外界を操っている。
生存機械は、遺伝子のコロニーであるにしても、行動上はまぎれもなくそれ自体の個体性を獲得している。一頭の動物は統制のとれた全体として、つまり1つの単位として行動する。淘汰は他の遺伝子と協調する遺伝子に有利にはたらいた。少ない資源をめぐる峻烈な争いや、他の生存機械を食うためと食われるのを避けるための情容赦ない闘いにおいては、共同体的な体の内部が無統制であるものより中枢によって統合されているもののほうが有利であったにちがいない。今日では、遺伝子間の相互的共進化が進んできており、個々の生存機械が実はそういった協同性の産物であるなどとは、ほとんど識別できないありさまになっている。
2)生存機械の行動の最もいちじるしい特性のひとつは、その合目的性である。こういったからといって、それが動物の遺伝子の生存に役立つようにうまく計算されているようにみえるといいたいのではない。もちろんそうにはちがいないのだが、私がいいたいのは、人間の意図的な行動によく似ているということだ。動物が食物を「探し」たり、配偶者を探したり、いなくなった子どもを捜しているのをみると、われわれが何かを探しているときに経験するある種の主体的感情をその動物がもっていると思わずにはいられない。こうしたな感情には、あるものに対する「望み」、望みのものを「頭に描いた像」、あるいは「目的」ないし「目論見」が含まれている。
われわれはだれも、自分自身を内省してみればわかるように、少なくとも現代の生存機械では、この合目的性が「意識」とよばれる特性を発揮させたことを知っている。
(リチャード・ドーキンス著、日高敏隆・羽田節子ら訳「利己的な遺伝子」より改変)
(B)
心身に異常や病気があるために、人間という機械はある時は調子よく動き、ある時はその調子が狂う─それを本来の状態に戻してやるのが諸君の仕事である。素晴らしい世界に生きるすこぶる複雑なこの人間という機構を種々相にわたって診る。そういう人間がわれわれの研究と諸君の治療の対象となるのだ─生まれたばかりの裸の赤子、無邪気な子供、頭上にある知識という木に気づき始めた若い男女、人生の盛りにある逞しい男、眉間に妊娠の祝福を受けている女、静かに過去の思い出に耽る老人達など、ありとあらゆる人間が研究と治療の対象となる。医学の科学(サイエンス)と技術(アート)の分野においてはほとんどすべてのものが新しく生まれ変わった。だが、何世紀もの長い間まったく変わらず、変化の片鱗すら見せなかったものがある。
それはわれわれの考察と治療の対象となる人間の本質的な面である。イスラエルの名歌手ダビデから生まれた病める私生児注1、疫病に見舞われたアテネ期待の大政治家注2、愛するアルテミドーラを奪われたエルペノール注3、「かくもその死を嘆き悲しんだタリー注4の娘」などのような人達は、時代・民族を問わずどこにでもいるー今ここにいるわれわれも、ハムレット、オフィリア、リア王などのような人達注5も同じ人間であることに変わりない。3)われわれの仕事は永久に続く悲しみと苦しみの真っただ中にある。役者の演ずる英雄的行為と献身という見せ物で毎日起こる悲劇を軽減してやらなければ、悲しみの旋律は永遠に続き、さらに耐え難いものになることであろう。
諸君を支えてくれるものは、退屈とも思える日常診療の中に、人生における真実の詩を読み取る力である。その詩は、愛と喜び、悲しみと苦しみに生きる平凡な男や素朴で苦労にやつれた女達、ごく普通の人々から生まれたものである。人生の喜劇的な面も、悲劇的な面と同じくらい医者の目を引く。仲間の人間が陥っている驚くほど滑稽な状況を滑稽だとわかるユーモアのセンスを諸君が持ち合わせているなら、片手を天に上げ、諸君の生まれた星に感謝を捧げていただきたい。
(ウイリアム・オスラー著、日野原重明ら訳『平静の心』より改変)
注1)旧約聖書、サムエル記(下)より。
注2)ペリクレス(BC495〜429)をさす。
注3)ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩「オデッセイ」の登場人物で、魔女キルケの宮殿の屋根から落ちて死んだという。
注4)ローマの政治家・雄弁家キケロ(BC106〜43)の別名。可愛がっていた娘の死の悲しみ癒やすために「偉人の死」を執筆した。
注5)シェイクスピア(1564〜1616)の戯曲「ハムレット」「リア王」の登場人物。
設問1 (A)の文章の主体となる( 1 )にあてはまるものは何か。
設問2 (A)の文章の下線部2)の意味するところを50字以内で説明せよ。
設問3 (B)の著者の考えている“われわれの仕事”下線部3)はどのようなものか、50字以内で説明せよ。
設問4 (A)の文章は生物学者が記した生物界の世界観で、(B)の文章は医学教育者の講演録
の1節である。(A)と(B)における人間観をそれぞれ50字以内で説明せよ。
設問5 医学は自然科学を基礎におく学問であるが、他の科学領域と比べて異なる点が多々あ
る。自然科学における医学の特殊性について、本論文を参考にしながら自分の考えを250字以
内で述べよ。
[第55回]
今回から千葉大学(医学部)の問題を検討します。これまでの出題とは異なります。
国立大学の医学部に多い、参考文献を読ませ、小問に応えさせる形式の問題です。
「テキパキとした処理が求められている」
A子 「こんにちは、今週もよろしくお願いします」
平川先生「ええ、こちらこそ。今日から、千葉大学(医学部)の過去問です。
さて、どう攻めていきましょうか」
A子 「まずは、きちんと問われているのは何か、設問を見ることが大事だと思います」
平川先生「そうですね。設問は、小問形式で5つあります。そのうち、記述での解答が、50字以
内の小問が3問。250字の小論文が1つです。結構、時間がしんどいですね。
これらを45分以内とは、テキパキとした事務処理能力が求められていますね」
A子 「そうですね。私立大学の医学部とは、問われていることが違いますね」
平川先生「私立大学が、単に論理的思考力の有無を聞く傾向が強いのに対して、国立大学の医学
部は、論理的思考力と、事柄に対する素早い処理能力を求めていますね」
A子 「はい、だから本試験では、どういう処理手順で行くか考えておく必要があります。
まず、設問を先に読んで、大まかに問いが何を聞いているのか線を引き、その上で問題
文を読むことが大事だと思います。そして、文章にも重要な箇所には線を引きながら読
む。これぐらいのことをしないと、45分の時間にすべての問題にきちんと応えることは、
できないと思います(「ふー」と、ため息をつく)。私、来年大丈夫かしら」
平川先生「(A子さんの沈んだ表情に気付き、ニコッと微笑んで言う)大丈夫ですよ。受験勉強
は、ただ闇雲にやっても効果は上がりません。合格するためには、どうすればよいか、
自分に欠けているものはなにか、考える。受かるためのノウハウこそが、一番大事で
す。A子さんは、とても真面目で、1つ1つのことをコツコツやる人です。『今は、でき
なくても構わない。自分の不足しているものは、何か発見するんだ。発見の度に合格が
近づくんだ』こういう気持ちでいれば、必ず合格できます。心配いりませんよ」
A子 「はい、優しいお言葉ありがとうございます(少し涙ぐむ)」
平川先生「では、時間も押してきたので、今回は簡単に⑴から⑶までやってみましょう」
A子 「ええ、まず設問⑴は、Aの文章で主体となるものは何か聞いています。『自己複
製子は、化学的手段を講じるか、あるいは身のまわりにタンパク質の物理的な壁を
もうけるかして、身をまもる術を編みだした。こうして最初の生きた( 1 )が
出現した』とあることから、自己複製子とは、文脈から遺伝子であると読み取れま
す。それで、( 1 )には、『細胞』が入ると思います。」
平川先生「そうですね。正解です。
自己複製子とは、遺伝子等、自らの複製を作る能力を持つ分子もしくは一連の
情報をいいます。
本問の筆者であるドーキンスは、著名な学者で、1976年発行の著書『利己的な
遺伝子』はベストセラーにもなりました。もっとも、医学部受験生は、そんなこ
とを知っている必要はありません。設問の設定だけで解答できれば、大丈夫です。
では、設問⑵は、どうですか。」
A子 「『どのようなものか』という問いの意味は、『言葉を読み手に分かるように置き換
えろ』ということだ、と思います。
したがって、『生存機械の行動の最もいちじるしい特性のひとつは、その合目的
性である』こととは、『動物の行動の特徴は、人と同様に望みや目論見などを持って
いるかのように、目的に沿った行動をすること』(46字)、だと考えます」
平川先生「なるほど。短時間で、よくまとめました。正解です。次に、設問⑶は、どうで
しょう」
A子 「まず、(B)の文章は、人とはいかなる存在で、医師はどう関わるかについて述べてい
ます。そこで、設問の『われわれの仕事』とは、医師としての果たす役割を聞いている、
ということが明らかになります。
以上から、『われわれの仕事』とは、(B)の冒頭の表現『心身に異常や病気があるた
めに、人間という機械はある時は調子よく動き、ある時はその調子が狂う─それを本来の
状態に戻してやるのが諸君の仕事である』と下線部3)の直後の『永久に続く悲しみと苦
しみの真っただ中にある。役者の演ずる英雄的行為と献身という見せ物で毎日起こる悲劇
を軽減してやらなければ』の部分を、まとめることだと分かります。
したがって、『われわれの仕事』とは、『それぞれの人生に心を寄せて、人々の調子の
狂っている状態を元に戻し、その苦しみを軽減してあげること』(46字)だと、考えま
す」
平川先生「そうですね。筋道が通っています。正解です。どうです。一見大変そうに思えても、
順序だってやっていけば、たいしたことはないでしょ」
A子 「はい、ありがとうございます。先生のご指導のおかげで、少し頑張れる気がしてきまし
た。次回も、よろしくお願いします」
平川先生「ええ、こちらこそよろしく。では、時間になりました。来週をお楽しみに」
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成川豊彦
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略歴
昭和49年(1974年)
Wセミナー・グループを設立。
平成12年(2000年)
国際著名人年鑑「InternationalWHO’SWHOofProfessionals」に選出される。
平成21年(2009年)
司法試験・予備試験専門の少人数制予備校「スクール東京」の最高名誉顧問に就任。
司法試験・予備試験の合格に向けて、自ら直接指導。
現在
中国・西南法政大学客員教授も務め、教育・健康の分野において国内外で活躍中。
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