B.T様 社会人

1、基本問題と応用問題の区別について

新司法試験には、基本問題と応用問題とがある。基本問題とは、有名だったり過去問に出てきたりした論点知識をはきだすだけで答えることのできる問題と、規範部分は有名だが、当てはめの事実がたくさんあるという当てはめ重視問題の総称である。対して、応用問題とは、論点自体は夢暇で入れないが、問題自体に気付くことや、条文の趣旨を自力で考え、適切に当てはめることが要求される問題をいう。

上位再現答案を分析すると、基本問題については正確な知識と適切なあてはめが要求される一方、応用部分については、知識ではなく、条文やその趣旨から論理的に妥当な知識を導けば、高得点が取れている。このことから、論文合格のためには基本問題が解ける知識を備えることで十分であり、この部分を効率よく理解し、記憶できた者であれば、2-3年しか勉強していなくても合格することが可能な試験であるということができる。

 そこで、基本問題を解けるために必要な知識基本部分の範囲を明らかにするため、上位から下位までの再現答案を分析した。そして、一般的な中位答案であれば知っていると思われる論点と予備校等で示される論点の重要度や百選等自分の使っていた教材を照らし合わせ、習得すべき基本の範囲を限定した。その結果、予備校等でB+以上の重要性を持つといわれた知識と、憲法と会社法と民訴と刑訴は百選全部、民法は「民法ドリル」(スクール東京出版)にのっている内容、民訴と刑訴は平成以降旧司法試験で聞かれた内容を基本の範囲に設定することができた。なお、刑法はロースクール卒業段階で知識として十分だと思っていたので、インプットはあまりせず、「刑法事例演習教材を解きこんだ。問題集に直接書き込み、読みにくくなったり邪魔な線やコメントが多くなったりしたら新しく買い替えたので、最終的に同書を4冊購入することになった。もっとも、4冊目は使わなかった。

この範囲を超えた応用問題を解くのに必要な知識まで勉強しようとすると、例えばケースブックの解答をくまなく正確に理解するようになるかもしれないが、それでは早期の合格はなかなかできない。また、例えば平成30年度民事系第2問設問3のように、条文の趣旨を考えて問題を解くことを試験委員が要求していることからすると、応用問題を知識で説くことは求められていないことが分かる

2、基本問題を解く

(1)司法試験における基本問題は、判例の事案や、ある制度の典型的事案を少し変えて出題している。しかし、そこで問われている判例や制度は、ある程度勉強した人であれば、当然知っているものである。択一試験に通っている者であれば、少なくとも上3法はある程度勉強できているはずである。それでも合格点に達しないのは、①問われている基本知識に気付くことができなかったか、②気づくことができていても、事案に応じた適用ができていなかったことが理由であると考えられる。なお、③文章表現力に問題がある場合も敗因となりうるが、文章表現力については問われている論点の出来栄え点に影響するにすぎず、根本的な敗因とはなりにくいこと、自分の文章表現力はある程度ロースクール在学中に鍛えられたことから、そこが自分の敗因であるとは考えなかった。しかし、法規範を必要であればやや具体化して二次規範を立てること、一方で生の事実を適示してやや抽象的に評価し、これと規範とを当てはめるという形式を守ることは意識していた。また、できる限りわかりやすく、端的な表現を心がけるようにした。そのような表現は、各予備校が出す論証集やロースクールの授業や再現答案集から取ってきて、自作の論証集に組み込んでいった。

 私は、去年論文式試験の順位が3000番台(3140位)であった(公法系57点、民事系科目107点、刑事系科目91点。憲法F、行政法F、民法D、商法E、民訴F、刑法B、刑訴E)。そこから、設問ごとに①が大きな問題だったのか、②が大きな問題だったのかを分析した。方法としては、受験新法が出している配点表に加えて、自ら採点実感を読み解き、アレンジした配点表を自分の再現答案に当てはめてみると、各科目の根本的な敗因を見出すことができるようになる。

(2)ピントを合わせる―①問われている基本知識に気付く場面

成川先生には、講義中、よくピントが合っていないとお叱りをいただいた。ピントが合うとは、一般的には、ぼやけた被写体のうち、特定の部分がクリアであるということである。ピントが合わないとは、被写体がぼやけたままだということである。これを自分なりに司法試験に置き換えて考えると、①問われている基本知識を気付く段階においては、試験問題に記載されている事実を適切な法的構成に載せることができているかどうかを表現したものだと考えた。ぐちゃぐちゃの生の事実を、特定の法的構成という器にのせることで分別し、特定の被写体をあぶりだすことができるようになった状態が、「ピントの合った状態」である。そうすることで、被写体の一部を他の部分とより分けることができるからだ。

では、問題を解くにあたって、ピントの合った法的構成にピントを合わせ、問われている基本知識を導くためにはどうするか。ここでは、日々の学習がものをいうことになる。当然のことながら、試験で判例そのままの事案が出ることはない。そのため、事案が少し違っても、適切な法律構成を思いつくようにすることができる日々の学習を目指すことになる。私は、各制度や判例の本質を知ることに特化した。判例の事案を細かに知っていても、覚えきることができないし、些細な違いに拘泥してあらぬ方向に走ってしまう危険性がある。そのため、ある制度や判例を勉強する際、最低限必要な登場人物や権利関係を抽出した。これをするためには、判例の結論やその理由を懐に落ちるまで理解すればよい。そうすると、必要な情報が、きわめてシンプルにまとまることが分かるだろう。できる限りシンプルにした法的知識のなかには、図表化できるものもある。図表化すると、法的知識をグルーピングして一気に覚えることができ、便利である。そうして、シンプルにした図表や知識を、ストックするのである。例えば、会社法の利益供与において、必要な登場人物は、利益を供与される株主と、株式会社(取締役)である。必要な権利関係としては、利益を供与することであり、会社が利益を供与することが所有と経営の分離に影響を与えかねない状況にあることも必要である。そして、これらがそろえば十分である。実際、これらの登場人物や関係図を図表化し、併せて条文の要件を具体化した論証と併せてストックした。

試験本番では、試験問題の事実をもとに関係図を描くと、特定のストックした知識と重なることに気付くので、その法律構成を検討すれば、ピントの合った枠組みにのって、論文を進めることができるようになる。

ここで、仮に事案、結論あるいは要件等を十分に理解しようとせず、わからない部分はただ暗記するという勉強をしていたらどうなるか。試験問題は、暗記していた事案と異なるので、適切な法律構成に事案をのせることができなくなるだろう。あるいは、似たような、しかし本質的には異なる法的構成を、何となく正しそうだとして採用してしまうことになりかねない。私が去年ほとんど点数を受けることができなかった憲法では、この法的構成の枠組みを外していたことが大きな要因だった。適切な法律構成に事案を載せることができなくなってしまうと、配点表の大枠をとらえることができず、大きな減点をされる(あるいは加点を失う)ことになる。平成30年度論文式試験の商法設問2で利益供与に気付けなかった人は、暗記に走っている可能性が高い。試験問題の関係図を眺めてみれば、利益供与の図式であることには気付けるはずなのに、これができないということは、基本知識の本質部分をストックするという意識が薄かったというのが反省すべき点である。これを素直に反省することができ、今までの勉強法を見直せば、私のように数か月で合格レベルに跳ね上がることが可能である。

これまで大手の予備校の答練や模試に参加してきたが、本試験のように、問われていることは基本知識だが、それを使うためにはその基本知識の本質を知らなければならない、という問題は少なかった。「なるほど」と思える良問も、なかにはあったが、多くは本質的でない部分で基本知識を問う問題であった。これは本試験向きではない。そもそも、本試験のように基本問題と応用問題を区別しない問題もあり、やはりクオリティには限界があった。試験問題に対峙して、悩み、ピントを合わせる練習をする素材は、本試験や予備試験、旧試験の過去問題以外にはないのである。もっとも、時間管理や答案作成に慣れるために答練をするというのは、大いに効果があるので、このような目的であれば、予備校の答練を利用することもよい。

(3)ピントを合わせる―②事案に応じた適用をする場面

 問題を解くための法律構成が分かったとしても、事案に応じた適用ができていなければならない。法律構成の適用場面でも、「ピントを合わせる」必要がある。ここでピントが合わなければ、試験委員が悩んでほしい事実とそうでない事実とが区別されず、全体として答案が「ぼやける」。ピントを合わせ、悩んでほしい事実と、それほど重要でない事実とを区別し、そのうち悩んでほしい事実に照準を合わせ、大いに論じるべきである。採点実感(特に民法)でも、そのような答案をできるだけ評価する採点方式をとっていると述べている。

 では、このように、試験上重要な事実に照準を合わせるためにはどうするか。それは、規範の理由を丁寧に考えることで対処可能である。規範の理由づけは、判例などで書いてあることもあるし、書いてないこともある。書いてある場合も、十分に納得ができなければならないし、書いていない場合は、自分で考えるしかない。また、ある制度について適用しようという場合、その制度が作られた立法事実や典型的適用場面を理解することになる。これらの勉強によって、判例であれば、判例の事案の重要な事実を抽出することができ、その部分が少し変わって出題されたとしても、当該規範が定立された理由からすればどのように考えるべきか、ということが分かるようになる。

 スクール東京では、刑訴の講義と刑法の重要論点講義の講座で勝本先生に教わったが、勝本先生がこの法律適用の場面における勉強法を具体的に判例百選や過去問題を使って教えてくれた。法規範を理解すれば、判例百選の重要な事実を抽出することができるようになる。本試験では、そのような重要な事実が少しひねって出題されることが多いが、法規範が導かれた理由を考えれば、ひねった事実に対応した適用をすることができるようになる。また、本試験では時間に余裕がないが、これに対処するには、事案を見てどれが重要な事実なのかを瞬時に理解できるようになるまで判例を繰り返し読み込めばよい。あるいは、「民法ドリル」等の良質な問題集を自分なりに解き、論証を当てはめながら繰り返し説き込めばよい。

 法制度を理解する力は、スクール東京の短答ゼミで培った。短答ゼミでは、短答過去問の各肢を素材に、法制度を適用する前提として、その法制度がなぜ存在するのかについて、必要性と相当性を軸に自分で考える練習を積むことができた。その結果、法制度の内容を自力で考える癖がつき、論証やストックを作る際も、基本書を読んで素早く内容を理解し、論証やストックに落とし込むことができるようになった。

3、応用問題を解く

応用問題とは、有名ではない論点について、条文を適切に適用することを求める問題である。あらかじめストックしていた基本知識が使えないことが多い。例えば、平成30年度商法設問3のような問題である。このような問題について、あらかじめ答えられるようにストックを用意する必要はない。要求されてもいない。形式的な条文の要件・効果からその存在理由・趣旨を考えて、必要なら二次規範を立てつつ、当てはめることになる。

「基本だけ勉強していれば受かる」という人の「基本」というのがこれまで述べてきた基本問題を解くために必要な知識というのなら、おそらくこの言葉は正しい。応用問題について不十分でも、合格ラインに乗ると思われるからだ。ここからは勉強のスタンスの問題になるかもしれないが、私は、それでも応用問題に積極的に取り組んだ。司法試験は実務家登用試験であり、実務に出れば未知の問題や知らない条文を適用しなければならないこともある。相談者が相談してきて、問題になりそうな条文をその場で基本書眺めながら答えるような弁護士ではなく、その場で自分で考えてよい筋の流れを答えられるのが僕の描く理想の弁護士であった。そのような力を試験委員も求めていると勝手に共感し、私は、応用問題については積極的に攻めた。

応用問題に立ち向かうためには、日々、どのような場合にどのような条文を使うのかを意識し、問題となりそうな条文を適示できるようになる必要がある。今年の商法設問3のように、試験委員が教えてくれることもあるが、すこし受験生をなめすぎである。条文を適示できるようになった後は、その条文の要件や効果から、その条文が必要である理由と反対利益に配慮した相当性を考え、趣旨を明らかにする。そうして、条文を具体化し、適用していく。この実力をつけるのには、いくつか方法があるが、その一つとして、前述のスクール東京の短答ゼミが役立った。いつも当然のように使っていた法制度も、その存在理由や適切な適用を考えるのは、なかなか大変だった。しかし、それを丁寧に考えることで、応用問題を解く実力が付いた。

4 まとめ

 以上が司法試験論文式試験に合格するために分析した内容と、司法試験に受かるための勉強方法の総論である。