受験ノウハウ

平川先生の小論文講座47―秋田大学(医学部医学科)2010年度―

[今回の過去問]
秋田大学(医学部医学科)2010年度 目標60分
以下の文章を読んでつづく問いに答えなさい。
──── 略 ────
炎症性乳がん
乳房の腫れ方が異常になって、女房と一緒に都内の病院で検査をした。乳がんであった。
医師は、私に炎症性乳がんだと教えた。炎症性乳がんはしこりがなく、しかし極めて悪性であり、六ヶ月ももたないかもしれないと話した。当時はまだ、インフォームドコンセントが一般的ではなかった。私は医師と、本当のことを女房に説明した方が、女房が頑張れるかどうか、と話し合った。結局医師が乳がんとだけ話すことになった。
さいわい乳がんの腫れを退かせる点滴が功を奏して、手術が出来ることになった。手術まえから女房は医師の説明に疑問を抱いて私にも問い、娘たちに乳がんについての解説書を探すように指示した。いまから思うと、恥じるばかりだが、私は娘たちに炎症性乳がんには触れていない本を選ばせた。
手術は終わった。リンパ節は広がっていた。
退院後、女房は娘たちにパソコンでアメリカの乳がん情報まで調べさせ、自分が炎症性乳がんであることに気づいた。当然私を激しく怒った。
私が「六ヶ月もたないかもしれないと医師から聞かされて」と弁明すると、「六ヶ月ならばなおのこと、一日一日しっかり生きなければならないではないか」と激しく怒られて、私は申しわけなかったとひたすら謝った。
そのこともあって女房は病院を変えた。そして、“六ヶ月”のはずが“五年十ヶ月”頑張った。本当によく頑張ったといまも感心している。

介護こそ老後の愛
もっとも、女房のがんとの戦いは、私との共闘でもあった。がんは身体の各部に転移し、食物の味がなくなり、景色がゆがんで見えるようになり、また抗がん剤の副作用に悩まされた。松葉杖が必要になり、車椅子生活になった。立てない女房を支え、毎晩風呂に入れて女房の身体を洗うのも私の仕事になった。立てない女房を風呂に入れるのはなかなか難しい。しかし、私にはきわめて楽しい作業であった。
年をとると女房と身体で触れ合うこと、抱き合うことが間遠になる。その意味では毎日深々と触れあい、抱き合うわけで、私には介護こそ老後の愛と感じられた。触れ合うことが非常に多くなったのである。もしも、相手と意思が通じない場合は少々事情が異なるかもしれない。しかしお互いにコミュニケーションが出来ている限り、介護はどのような難業であろうと、いや難業であればあるほど楽しいものだと実感した。
二○○四年六月、女房は全く身動き出来なくなり、やむなく入院した。
入院して、私に出来るのは、女房の身体を摩(さす)ること、そして会話をすることだけであった。会話は若き日と同じ愛の言葉であった。
いまにしてあらためて思い返すのだが、女房は一度も弱音をはかなかった。おそらく、近づきつつある死について深刻な思いがあったに違いないが、努めて明るくふるまった。
私自身、愛の会話に逃げたきらいもあるが、女房は悩むなんて馬鹿馬鹿しいと笑い捨てた。あらためてわが女房は凄い女性だったと思う。私は女房が亡くなったら生きていけないと感じていた。だが、女房が亡くなる二ヶ月半前に、双子の孫がうまれ、あなたはこの二人のために生きなくては、と励まされた。二人の孫は五歳なった。
注)インフォームドコンセント:医療行為などの対象者が治療の内容に関して十分な説明を受け、正しい情報を得た(インフォームド)うえで、方針に合意する(コンセント)こと。
(田原総一朗「凄い女房」『メディカル朝日』2009年8月号より)

設問1 患者(女房・節子)が私(私たち)に対して激しく怒ったのはなぜか?患者の立
    場から200字以内で推測せよ。
設問2 このエッセイを読んで「がん告知」における問題点を整理し、自らの考えを300字以内
    にまとめよ。
設問3 タイトルにある“凄い女房”の凄いところとはどこか?100字以内で述べよ。

[第47回]
泣いても、笑っても今週末で国公立の医学部入試は、一区切りです。
こんな時こそ、基本に戻る。まずは設問に線を引き、何が聞かれているのか確認する。その上で、問題文を読む。答案構成をして、結論を先に書き、次に理由を書く等、答案の形は今のうちに固めておきましょう。

(〈注〉私立大学・医学部の小論文対策は、ぜひ、2冊の電子書籍「小論文の最終チェック」「読むだけで身につく、医学部・小論文重要ポイント」を活用してください。Amazonにて、それぞれ電子書籍版定価500円。好評発売中)

「問いに応える」


▼平川先生「前回、答案構成に基づいて、まとめてもらいました。スク男君の答案
     は、問2について、もう少し設問に対応するような表現をすべき、と
     いう点が指摘されました。
     今週末行われる国公立医学部入試に向けての最終チェックとして、
     本日は、先週の答案の書き直しをしたスク男君の答案を、まず見ま
     しょう」

スク男 「はい、お願いします」

(しばらくして)

(以下が、スク男君の書いたものです)

設問1
個人がどう生きるかは、たとえ夫婦であっても犯してはいけない大事な権利である。自己決定権の問題である。がんに罹った人間が、残された人生をどう生きるかは、まさにこの自己決定権の問題であった。
それにも関わらず、夫と娘達が自分に病状を隠して、自らの命についての問題を、ないがしろにした。だから、患者は、「六ヶ月ならばなおのこと、一日一日しっかり生きなければならないではないか」と、激怒したのだ。(192字)

設問2
10年前、治療は、自己決定権の問題だとする意識が乏しかった。「がん告知」は、医師の漠然とした判断に委ねられていた。多くの場合、患者は、真実を知らされないまま最期を迎え、残される家族は、大事な人のいなくなることを思いながらも、悲しみを表に出さない日々を強いられた。
だが、今日、医療技術の進歩と、人権意識の向上により、社会の捉え方は大きく変わった。病人
本人は、最後まで人として尊重されるべきである。正しい情報の提供(インフォームド)と当事者の同意(コンセント)は、患者の自己決定権の現れとして、医療において欠かせない要素である。
したがって、「がん告知」は治療における当然の原則であると考える。(296字)

設問3
末期がんという自らの困難から逃げないで、弱音をはかず立ち向かい、さらに残される夫のこと、娘たちのことにも気遣って、「一日一日しっかり生き」ぬいたところが、凄いところだと考える。(88字)

平川先生「問2について、問題点の整理と、それに対するスク男君の見解が、簡潔
にまとめられていると思います。問いに応える姿勢が出ています。合格
答案です」

スク男  「ありがとうございます(顔を赤らめて、うれしそうにするスク男君)」

平川先生「では、次は、A子さんの答案を見てみましょう」

A子「はい(緊張した表情で、対応する)」

(以下が、A子さんの答案です)

設問1
筆者の女房である患者は、筆者と医師が、自分をのけ者にして相談し、乳がんであることを隠していたことや、乳がんについて調べようとした時に、正確な情報を伝えようとしなかったこと。さらに自らの余命の問題にも関わらず、内緒で治療方針を決めていたことで憤激したのである。
限られた時間をどう生きるかという自己決定権を、ないがしろにされたことに、怒りを感じたのである。(176字)

設問2
患者の自己決定権の重要性の理解が、欠如している。患者本人の意思の尊重という視点が、希薄である。
確かに、医師や家族それぞれに言い分はあるだろう。医師からすれば、余命云々を言えば、患者はショックを受け治療もままならくなる。それならば、「うそも方便」。敢えて、真実を隠す方が、かえって治療が進む、と考える。一方、患者の家族は、「最後までうそを通した方が、本人が安らかに過ごせる」、と考える。
間違いだ。病人本人を軽視している。女房は、「六ヶ月ならばなおのこと、一日一日しっかり生きなければならないではないか」と厳しく筆者をしかっている。
「がん告知」は、自己決定権として当然に認められるべきと考える。(295字)

設問3
女房は、死に対して弱音を吐くことなく、毎日を努めて明るくふるまった。それだけではなく、生まれたばかりの双子の孫を指して、「あなたはこの2人のために生きなくては」と、逆に励ましてくれた点。(93字)


平川先生「表記上、少し、修飾語が多く、また同じ言葉。例えば『患者』が繰り返し過ぎる
     という問題があります。内容的にも、少しもたついた感じがします。先に、結論を
     ズバッと言うとよいでしょう。 後は、おおむね問いに応えていると思います。
     合格です」

 


A子「ありがとうございます。正直、学校の小論文の授業を受けているだけで、自信があり
  ませんでした。先週のスク男さんの答案を参考にさせていただきました。今週末の入試
  に、ギリギリですけど間に合いました。先生、スク男さんありがとうございます」

スク男「は、はい。こちらこそ(耳たぶの先まで真っ赤なスク男君)。こんなので役立つの
    なら」
平川先生「さあ、いよいよ今週末は、本番です。この講座で学んだことを使い、試験では思
     う存分戦ってきてください」

スク男、A子「はい、頑張ってきます。今日は、ありがとうございました」

平川先生「それでは、読者の皆さんも、夢を絶対に実現!あと少しだけ頑張れ!!」

【合格する小論文のヒント】
「最後の最後まで諦めない」
合格の反対の言葉は、なんでしょうか。「不合格」?いえ、違います。「諦める」ことです。諦めなければ、必ず合格できます。人が作った試験です。大したことはない。基本に戻って、1つ1つを丁寧に取り組んでください。
試験会場では、会場入り口で一礼。そのあと席に着きます。開始の合図とともに、まずは、深呼吸3回、平常心で臨みましょう。
次に、設問には線を引き、問題文が何を聞いているのかチェックする。そして読み進め、書くべき事項はどんなことか、どのような関係にあるのか、答案構成をする。
こうして、頭の整理をしてから、一気に書き上げましょう。
最後は、誤字・脱字のチェック、受験番号、氏名の書き忘れの点検です。
夢を、絶対に実現!

* * * * *

〈医学部・受験の電子書籍、ペーパー書籍の案内〉

1、「小論文の最終チェック」
本書は、受験生のため、すぐにでも小論文が使えるノウハウが、
述べられています。
各大学の過去問の答案例を基にしています。
読めば、それだけで答案作成のイメージが付きます。
夢を必ず、実現!

■電子書籍版500円(税込)
https://amzn.to/2H5ouGO

■ペーパー書籍
近日発売予定

さあ、あなたもこれを見たら
アマゾンで本書をダウンロード!
スマホ、タブレットで、
どこでもチェックできます。

2、「読むだけで身につく医学部・小論文 重要ポイント」
間近に迫った小論文対策にぴったり。

■電子書籍版500円(税込)
https://amzn.to/2S9BaSf

■ペーパー書籍1,620円(税込)
https://amzn.to/2tlEZoD

3,〈医学部・受験のレクチャーの案内〉

「小論文の最終チェック」発売に伴い、
本書を使用した特別講義を行います。

無料です。講師は、本書の著者である
成川豊彦先生です。

https://youtu.be/OoT2eG-5uBI

* * * * *
平川先生の小論文講座47
スクール東京
最高名誉顧問
成川豊彦
~~~~
略歴
昭和49年(1974年)
Wセミナー・グループを設立。
平成12年(2000年)
国際著名人年鑑「InternationalWHO’SWHOofProfessionals」に選出される。
平成21年(2009年)
司法試験・予備試験専門の少人数制予備校「スクール東京」の最高名誉顧問に就任。
司法試験・予備試験の合格に向けて、自ら直接指導。
現在
中国・西南法政大学客員教授も務め、教育・健康の分野において国内外で活躍中。

▼本日も、ブログ記事を読んでいただき、ありがとうございました。あなたの1クリックは、私が記事を書く、大きな原動力となります。以下のバナーをクリックして、ランキング・アップに、ご協力ください。

にほんブログ村 受験ブログ 医学部・医療系受験へ

クリック、ありがとうございます!

【成川豊彦の関連ホームページ】
● 成川豊彦オフィシャルサイト「合格の森※成川先生の「元気が出る動画」が満載!
○ 司法試験・予備試験専門の個別指導予備校「スクール東京
├ お悩みやご質問は、お気軽に成川先生へのメール」まで。
└ 全国どこでも、講演に駆けつけます! お気軽に成川先生・講演のご依頼」まで。

【司法試験・予備試験の個別指導校「スクール東京」のおトク情報】
フェイスブック
ツイッター

関連記事

  1. 受験ノウハウ

    「逃げたら、アカン」

    -----------------------------------…

  2. 受験ノウハウ

    「勝負だ!!」

    今日が、入試本番だというあなたへ。さあ! 勝負!!よく、ここまで来…

  3. 受験ノウハウ

    「目や体を、いたわってあげて」

    医学部受験生のあなたへ。あなたは、勉強しすぎて、目が赤く充血してしまう…

  4. 受験ノウハウ

    平川先生の小論文講座⑩

    本日は、平川先生の小論文講座第10回目をお届けします![設問]…

  5. 受験ノウハウ

    「別れた人の面影を、夢に見るのは・・・」

    医学部受験生のあなたへ。以前、医師志望のAさんから、恋の悩みの相談があ…

  6. 受験ノウハウ

    「折り込み済みでは、ありませんか」

    最近、社会人受験生やバイト受験生の相談で、目立っています。「クヨクヨと…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

Amazonにて、電子書籍版・ペーパー書籍版発売中!

Amazonにて、電子書籍版・ペーパー書籍版発売中!

2024年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

  1. 受験ノウハウ

    「医学部受験生としての基本的なルールとは」
  2. 受験ノウハウ

    「誰だって、高校を卒業した年に、医学部に合格したい」
  3. 受験ノウハウ

    「質問の仕方ひとつとっても」
  4. 受験ノウハウ

    「受講生からの、推薦文!」
  5. 受験ノウハウ

    「可愛い彼女は」
PAGE TOP